その他令和8年7月20日発行 第3606号 掲載ガーナの稲作:技術で生産性向上へ/JICA国際協力専門員・大石常夫氏米食が広がり、米の増産とともに関連農業機械のニーズが高まっているアフリカ。アフリカはまさにこれから本格的な農業機械化が始まるところであり、ポテンシャルが大きく、注目が集まっている市場である。本連載では前回に引き続き、アフリカで活躍するJICAの農業機械化専門家・大石常夫氏による寄稿にて、現地事情を紹介する(不定期連載)。 ◇ 今回はJICA持続的農業機械化促進アドバイザーの活動拠点であるガーナにおける稲作の直播とドローン播種の活動について報告する。 まずJICAによるサブ・サハラアフリカ地域での稲作振興の取り組みについて紹介する。JICAはAGRA(アフリカ緑の革命のための同盟)という国際NGO等と共に、2008年からアフリカ稲作振興のための共同体(CARD)と呼ばれる取り組みを通じて、サブ・サハラアフリカ諸国に対する稲作を支援してきている。 実はアフリカの人々は結構お米を食べる。米は日本の米(もちもち感のあるジャポニカ米)と違い、中・長粒種のインディカ米で、日本のようにそのまま炊いて食べることもあるが、大抵は炊き込みご飯のようにしたり、ソースをかけたりして食べる。 しかし、ほとんどのサブ・サハラアフリカ諸国は自国の米需要を満たすほどの生産には至っておらず、2007年頃の穀物価格の高騰の深刻な影響を受けたこともあり、サブ・サハラアフリカ域内での米増産が進められてきている。2007年当時の米生産量が籾ベースで1400万㌧であったのに対し、10年間のJICAをはじめとする稲作振興の取り組みの結果、2018年には米倍増目標の2800万㌧生産が達成された。それは、稲作戦略の策定といった政策レベルから、種子の改良・圃場整備・栽培技術・圃場機械化・収穫後処理といった現場レベルでの取り組み、また、活動の根幹を支える金融や人材育成、更にそれらをつなげるバリューチェーンの視点に立った総合的な取り組みが行われた結果である。 現在はCARDフェーズ2に入っており、CARDフェーズ1終了時には23参加国が37カ国にまで増え、2030年までの更なる米の倍増に向けて日々取り組みが続けられている。 今回紹介する農業機械化の取り組みは、このCARD傘下で実施されているJICA技術協力プロジェクトの1つである『ガーナ稲作生産性向上プロジェクト:通称GRIP』によるものである。このプロジェクトの活動の柱は4つあり、①天水稲作地域にて稲作普及ガイドラインの活用拡大②灌漑地区における参加型灌漑管理にかかる水利組合の能力強化③改良稲作技術の対象灌漑地区での活用④コメセクターの政策戦略および調整機能の強化となっていて、今回紹介する農業機械化の活動は②と③に関係する。アフリカというと若者の人口比率が高いため、農村には安価で十分な労働力があると思われがちだが、国によってはそのような状況が当てはまらないところもある。 ガーナもそういった国の1つで、圃場耕起、播種・田植え、収穫の時期は特に作業が集中し、農作業員にかかるコストも上がり、機械サービスも長い順番待ちとなる。その結果、農作業の遅れが生じれば収量の低下に、また生産コストの上昇は農家の収益性を圧迫する原因となる。 そこでGRIPが進めているのは、省力化のための技術普及であり『湛水直播』と『ドローン播種』、またそれらに不可欠な圃場の『均平な代掻き技術』である。また圃場条件により『乾田直播』も行っている。日本でもまだ試行的に行われているこれら取り組みはガーナでもまだ試行段階にある。 今回作業を行ったのは2300㌶の圃場が整備されたKpong(ポン)という灌漑地区で、1年間に2回稲作ができる。まず圃場に「水入れ」を行った後、地元の農機サービスプロバイダー(賃耕業者)のトラクタに松山NIPLO社製のドライブハローを取り付けて、前日までに丹念に代掻きを行い、圃場を均平に仕上げておいた。当日はヤンマー社製の播種機を取り付けて播種作業を行った。この播種機はGRIPが試行的に導入したものであり、播種の正確さに定評がある。ドローン播種はガーナ国内で「KAMBANG farms and supplies」という企業を起こしてドローンサービス事業を行っている土橋啓泰氏の協力を得て行った。 ドローン作業について少し記載すると、同氏は現在起業3年目で、4名の職員と共に2台のドローンを使って米だけでなく、パイナップルなどの果樹園の薬剤散布も行っているという。今回のポン灌漑地区でのデモには約20数名の農家が参加し、ドローンが飛び立つと驚きの声が上がり、ドローンを初めて見た人が多かったという話も頷ける。 土橋氏は、種子量調整と飛行ルートの設定を手短に済ませ、0・2㌶の試験圃場の播種はほんの数分で完了した。1㌶のドローン播種作業料金は日本円に換算すると約5300円。人力での播種作業とコストはほぼ同じだが、1時間以上はかかる作業が短時間で完了するのは魅力的といえよう。ただ、収穫量が通常のやり方より劣っていては意味がないため、GRIPはその実証試験も行っている。GRIPの日本人専門家によると、前期での試行では、ドローン播種も湛水直播でも通常の田植えと遜色のない収量を得た(籾量で1㌶当たり約5㌧)。今期も収量の調査を行って省力化技術の効果を農家の皆さんに示していくとのことであった。 これと並行して進めているのが、灌漑地区の配水計画に応じて灌漑圃場単位の作期を揃える取り組みである。この地を4年ほど前に最初に訪れた時に感じたのは、圃場ごとに作業の進捗がばらばらということであった。手前の圃場では稲刈りの真っ最中であるが、その右隣りでは既に刈取りが終わって苗床が作られていたり、その反対側ではまだ稲穂が実り始めていたりした。水さえあればほぼ1年を通して稲作ができるのだが、これでは圃場の水管理も難しく、機械作業も非効率であることが容易に想像できた。 そこで、GRIPはこの昨期を合わせる手法に『ハーモニー』という名称を付けて、2300㌶のポン灌漑地区内の3カ所で取り組んでいる。まだ試行的な段階ではあるが、これが無駄のない配水、適切な圃場状態の確保、作業用機械の配備や収穫時の籾買取りの効率化など様々な効果が期待されている。 ◇ ※大石常夫氏=日本国内で自動車整備士、作業機メーカー・㈱佐野アタッチ研究所(現・㈱アグリアタッチ研究所)での製品開発を経験。国際協力分野ではモロッコでの青年海外協力隊経験(平成2年3月より2年間)を皮切りに、日本のNGOや複数国に及ぶJICA専門家として20数年の経験を有する国際協力のベテラン。JICA経済開発部で国際協力専門員として主に農業機械化の分野を担当、2026年1月から西アフリカのガーナ共和国を拠点に「持続的農業機械化アドバイザー」としてAFICAT重点国であるガーナ、ナイジェリア、コートジボワールにおいてAFICAT活動を含む各国の農業機械化支援に従事。(続く)